2012年2月11日土曜日

2012.2.11 タクサカシタ氏二周忌に向けて

今日2012年2月11日は、タクサカシタさんが不慮の事故でこの世を去られてから2年という日です。あの日からもう2年経つのだなと思うと、時間の流れというものは本当に速いものです。サカシタさんはアメリカに工房を構えて世界的に活躍されていたギター製作家で、独創的なデザインと機能美を追求したギターは世界の有名ギタリストたちによって演奏されてきました。生涯に作られた数少ない本数の中の1本と僕は幸運にも巡り会うことができ、今でも大切に使わせてもらっています。サカシタさんと生前親密なお付き合いのあったThe Guitar LoungeのHさんと先日お話する機会があり、知らなかったたくさんのエピソードを聞く事ができました。今日はその中からいくつかを紹介しつつサカシタさんについてお話したいと思います。ちょっと長くなりますがどうぞお付き合いください。



サカシタさんのギターと初めて出会ったのはちょうどAcousphereのライブの数ヶ月前のこと。Acousphereのライブと言ってもそれは自分たち主体のものではなく、師匠であるTuck&PattiがMotion Blue Yokohamaで演奏するときにゲスト出演させていただくというものでした。普通の自分たちのライブであればいつも通りのギター、機材を用意することで全く問題ないのですが、なんといってもその時はTuck&Pattiとのライブということで、気合いの入り方が違いました。相方の奥沢君はTuckと同じGibson L-5。それに見合うようなギターは?存在感があり、求めるサウンドを再現してくれるギターは?とずっと探していたところに、Operaが現れました。
それまで見たことのあるジャズギターとは一風異なる、独特な雰囲気を持った佇まいに一目惚れ。あまり弾いてあげられていなかったギターを下取りに出し、残りをローンにして(=けっこう無理して)購入することができました。ヘッドやサウンドホールの独創的なデザインを含む造形美と、ナチュラルで艶やかなサウンドは唯一無二のものだと言って良いのではないでしょうか。OperaのおかげでTuck&Pattiとの共演も無事成功し、これまでのAcousphereサウンドを作る事もできたと思います。

実はサカシタさんのことについては、そのライブの数年前にTuckさんから話を聞いていました。「今、タクサカシタという日本人のギター製作家と一緒にプロトタイプを作っているんだ。L-5の重量感も良いのだけれど、軽くて持ちやすい上にL-5のようなサウンドがするギターが欲しくてね。今回の日本ツアーに合わせて送ってきてくれたんだけれど、見てみる?」その時見せていただいたギターはKarizmaというモデルを原型に、えも言われぬ薄緑色に塗装された素晴らしいギターでした。何度も意見をやり取りしながら少しずつ完成に近付けているのだけれど、お互い忙しくて作業がなかなか進まないんだよ、とTuckは言っていました。これ以上どこをどう改善していくのだろう?という疑問と期待を一緒に感じた事を憶えています。

その後、Guitar Laboというネット上の企画でサカシタさんへのインタビューが実現します。その中でのエピソードは今思い出しても心が温かくなり、自然と笑顔になってしまうものです。こちらから閲覧できるので興味のある方はぜひご覧いただきたいのですが、ここに掲載されていない内容のことが実はありまして、ちょっとここでお話したいと思います。
サカシタさんが作るギターは当時既に世界的に有名になっていました。しかし有名になってしまったがために自分の理想と離れてしまう部分もあったようです。サカシタさんは一つのモデルを一度に1ダースくらいまとめて製作し、出来上がる前からいろいろな楽器店などから予約が入っていたそうなのですが、半数くらいはちょっと得体の知れない人からの連絡だったようです。つまり、投機目的。本当は演奏に使ってほしくてギターを作っているのに、そうではない使われ方をされている。そしていくらクライアントとはいえそのために作らなくてはならないということはご本人にとってさぞ不本意だったことでしょう。その時のインタビューで、自分のギターを正規に買って弾いてくれているということに対して感謝の言葉をいただきましたが(本当は逆で僕の方こそ素晴らしいギターを作っていただいて感謝しているんです。すっと。)、この世に存在するサカシタさんのギターが全てミュージシャンの手元に渡り、新しい音楽が生まれるための片腕となって活躍することを心から願わずにいられません。

Acousphereの二人で手を入れたOperaのガット化について、インタビューにもあるようにサカシタさんは最初かなり憤慨されたようです。自分のギターに手を入れるとは何事か、と。でも実際弾いてみたら、意外と良いじゃん、これもアリ、と思っていただけたようで、この時は本当にいろんな意味でほっとしました。その後このサカシタさんの反応に味をしめて(笑)、いつかversion-Rでガットを作ってほしいね、などといろいろ想像を膨らませていたわけです。そして先日、この時の後日談を先述のHさんから偶然(...と言いますかお二人の間では全ての情報が共有されていたようです...)お聞きすることができまして。。サカシタさんは電話で「Operaは元々ガット用に作った訳ではないから、ちゃんとガット用に一から作ればもっと良い楽器ができるよ。それを今度挑戦してみたいな。」とおしゃっていたそうです。このサカシタさんの言葉を聞いて、ああ、我々とサカシタさんは直接そう話した訳ではなかったけれど、同じ方向を向いていたんだな、と、とても嬉しく光栄で、ちょっと誇らしい気持ちになりました。そして同時に、そのサカシタさんのアイディアがもう永遠に実現しないことに、深い悲しみをおぼえます。

最後になりますが、サカシタさんのお別れセレモニーでは、サカシタさんのギターを使っているたくさんのアーティストが集まった追悼ライブが開催されました。もちろんTuck&Pattiも参列し、「I Remember You」でサカシタさんを送り出したそうです。そして悼辞が読まれている間、Tuckがサカシタさんと作ろうとしていたプロトタイブでソロギターを演奏していたそうです。