2012年4月8日日曜日

アドリブ研究:II-Vコード進行の応用フレーズ by Wes Montgomery

僕がこれまで耳コピーをし、蓄えてきたアドリブフレーズを紹介します。指使いやニュアンスなど演奏における注意点の他に、音使いのアナライズも解説しています。ぜひアドリブのアイディアを広げる参考にしてください!


■フレーズの概要
Wes Montgomeryは現代ジャズギタースタイルの基礎を生み出した伝説のギタリストです。オクターブ奏法、右手の親指だけを使った演奏方法、ダイナミックなアドリブの組み立てなど特徴的な部分は数多くありますが、忘れてはいけないのが一つ一つのフレーズがとてもメロディアスであるという点。今回のフレーズはジャズに典型的なコード進行のII-V-Iの箇所で出てくるものですが、Be-Bopの流れを受け継いだ正統的なフレーズを学んでください。



■指使いのこだわりポイント(人差し指:i、中指:m、薬指:a、小指:p)
1小節目1拍目にある4弦7フレット、3弦6フレット、2弦5フレットの3連符はジャズ的アドリブの典型的な音使いです。8分音符の連続で単調になりがちなフレーズの流れに、リズムの変化を付けて面白く聴かせてくれるアイディアです。押さえ方は、左手でAメジャートライアドのコードを押させるような形を作ります。とは言ってもコードのように全部一緒に押さえるのではなく、各音が分離して聴こえるように1音ずつ順番に押さえます。1小節目2拍目の2弦9フレットへは(a)でスライドアップします。1小節目3拍目最後の2弦9フレット(a)から6フレット(i)への移動はややジャンプするようにポジションチェンジしましょう。3小節目最初の3音は(i)、(m)、(i)と弾き、続く3連の繰り返しフレーズをm、a、iの繰り返しで弾きましょう。

■演奏するときの注意点
既にご存知の方も多いと思いますが、Wesはピックを使わず親指だけを使って演奏していました。Wesのように親指弾きにチャレンジする場合、シングルトーンの場合はほぼ全て親指のダウンピッキングで弾きましょう。1小節目1拍目の4弦から2弦へのフレーズはダウンのみで弾いた方が弾きやすい流れです。またダウンピッキングのみという、スムーズな弾き方とは決して言えない奏法を敢えて使うことで、Wes的なリズムの取り方になります。一方ピックを使ってこのフレーズを弾く場合を考えてみましょう。オルタネートピッキングを使うと先述した1小節目1拍目の4弦から2弦へのフレーズは、ダウンとアップの動きが弦移動の生理と異なる部分があるのでやや弾きにくい順番です。エコノミーピッキングを使うと1拍目をダウン、ダウン、アップ、2拍目をダウン、アップと弾けるのでピッキングの流れ的には美しい順番です。ただエコノミーピッキングはリズムをとるのが難しいので、スウィング感を出せるようリズムに注意して練習しましょう。

■音使いのアナライズ
一つ一つのコードに対してどのような音使いになっているのかをアナライズしましょう。 
1小節目
・F#m7:b3, 5, b7, 2, 4
・B7:1, b7, 6, b5
2小節目
・Fm7:b3, 5, b7, 2, 4
・Bb7:1, b7, 6, b5
1小節目のF#m7- B7の箇所は架空のEmaj7に向かうII-Vで、2小節目のFm7 - Bb7は3小節目のEbmaj7に向かうII-Vです。つまりどちらもII-Vのコード進行であるといえます。アナライズを見てみるとどちらも全く同じ音使いであることが分かりますね。つまりWesは同じII-Vフレーズを半音ずらして使っているのです。とてもシンプルな考え方ですが、非常に印象的なフレーズの組み立てになっています。
3小節目
・Ebmaj7:5, 6, 1, #2, 3, 5, #2, 3, 5
4小節目
・Ebmaj7:#2, 3, 5, #2, 3, 5, 2, b3, 2, 1, 6
5小節目
・Ebmaj7:1
3小節目3拍目から4小節目2拍目にかけて繰り返しのフレーズが演奏されています。#2度から3度への流れは、マイナーペンタトニックスケールなどに含まれる#2度(b3度と同じ)と、dom7thコードのコードトーンである3度の音が共存していて、ファンキーな響きに聴こえるフレーズです。ファンキー系のブルースなどでも使えるフレーズなので、ぜひ覚えて使いこなせるようになってください。4小節目3拍目の16分音符のフレーズにはb3度が使われています。メジャースケールから外れた音ではありますが、これもマイナーペンタトニックスケール的に響くので問題なく使えます。

■演奏できるシチュエーションの考察
1小節目から2小節目にかけてのコード進行は複雑に聴こえる箇所です。機能和声でアナライズしておくと、bIIIm7-bVI7-IIm7-V7となります。3小節目にこの曲のkeyであるEbmaj7( Imaj7)がありますが、ここまでの流れから一つの仮説が生まれます。それは、「元々のコード進行はII-V-Iではなかったか?」ということです。つまり以下のようなコード進行になります。
1小節目:Fm7
2小節目:Bb7
3小節目:Ebmaj7
4小節目:Ebmaj7
元々のシンプルなII-V-Iコード進行をリハーモナイズして、譜例のようになったと思われます。bIIIm7-bVI7の部分は、V7に向かう半音上からのII-Vと考えることができるので、アナライズ的にも成立しています。このように考えると、このフレーズを普通のII-Vの箇所に応用することが可能です。伴奏は通常のII-Vを演奏しているが、アドリブとしてはリハーモニゼーションされたフレーズを弾く。伴奏のハーモニーから外れているんじゃないか?というフレーズから、半音落ちた同じフレーズがハーモニーにぴったり響く形で聴こえてくる。アウトサイドからインサイドへの流れが作れ、とても美しいフレーズの組み立てになりますね。基本的にどんなII-Vコード進行の場所でも弾けるので(マイナーII-Vを除く)、ぜひチャレンジしてみてください。

■参考
Gone With The Wind / Wes Montgomery (from the album "Incredible Jazz Guitar")