2012年5月1日火曜日

PatMethenyLabo:Target Note Approach / 調性感と無調性感"

Third Windで使われているtarget note approachフレーズの音使いを分析していきましょう。まず一番肝心なtarget noteについて。フレーズの一番最後の音はDbで終わっていますが、これは次の音「C」へのアプローチです。この「C」を演奏した瞬間、それまで分からなかったCマイナーキーの雰囲気が戻ってくるのが分かります。


さて、ここからがtarget note approachの一番面白いところです。一度target note approachのフレーズを弾き始めたら、キーの雰囲気、つまり調性感は無くなってしまうのです!伴奏のコード進行があろうがなかろうが同じです。フレーズを弾いている最中はコード感、調性感は皆無で、あるのは「無調性感」のみです。これは「クロマチックスケール感」とも言えます。各unitの音使いやpolyunitのつながりには必ずクロマチックスケール、もしくはクロマチックな動きが含まれている。それがフレーズ全体の響きに大きく影響しているのです! 



Patはインタビューの中でこう言っています。 「自分は独学で勉強しているうちに分かったことだったんだけど、ダイアトニックモードだけのアドリブから抜け出したいと思うミュージシャンは必ず最初に、"クロマチックノートって変" という感覚につきまとわれるんだ。」 

これはジャズを勉強している人たち皆に当てはまることだと思います。つまり、ダイアトニックの響きから外れた音にすごく違和感を感じるということです。それくらいタイアトニックの響きは非常に強いものです。しかしこのダイアトニックの強い重力から離れることができなければ、いつまでたってもダイアトニックの中に居続けるしかありません。今この記事を読んでくれている人の中にも、アドリブをダイアトニックスケールでしか弾けないという悩みを持つ人もたくさんいることでしょう。そんな皆さんのために、意識を変えるヒントを一つ紹介します。

 無調性感=自由な空間である!

 無調性感の中にいることは、とても不安なことです。どこに落ち着けば良いのか、どこへ向かえば良いのかが全く分かりません。しかしこのことをネガティブに考えるのではなく、「どこにも縛られない自由な空間」と捉えるのです。調性感という重力から離脱して、無調性感という無重力空間をどのように浮遊するかだけを考える。そこにはフリーな空間が広がっているのです。コードトーンを意識する必要もなく、スケールも関係ありません。

 Patのヒーローの一人にOrnette Colemanがいます。Be-bopが全盛だった時代からフリージャズに挑戦しつづけてきた伝説のアルトサックスプレイヤーです。Lydian Chromatic Conceptを提唱したGeorge RussellがOrnetteの演奏を評して、「曲という重力の中心から自由に離れて飛んで行くロケットのようだ」と言っています。このOrnette評が無調性感の本質を言い当てていると言えるでしょう。Ornetteが作る曲には辛うじて重力の発生源となる音が存在します。しかしOrnette自身はその音に近付いたり離れたりしながら自由に無重力空間での浮遊を楽しんでいるのです。Third Windの中で聴かれるPatのtarget note approachフレーズはまさにこの感覚なのです。

いきなりこのような自由な感覚を持つことは難しいです。しかし少しずつ重力から離れる練習をすれば、だれでも無重力空間に飛び出していくことが可能です。別ページの練習メニューにぜひ挑戦してみてください。