2012年2月2日木曜日

Pat Metheny Tour in Japan 2012 ライブリポート:その3

『An Evening with Pat Metheny with Larry Grenadier』ライブリポート、その3です!

M7. Find Me In Your Dreams
Brad Mehldarとのデュオアルバムからもう1曲。パットはガットギターに持ち替え、柔らかくも芯のある音色で演奏。4曲目のAlways and Foreverと同じくレンジの広いサウンド。ラリーと共にかなり自由な雰囲気を持った演奏ですが、リズムに合わせていくというよりもリズムの軸を感じながら合わせたり外したりを自由にコントロールしている感じです。この軸を一つしっかり持ちつつ、それを基準にして時折外すという感覚はリズム然り、ハーモニー然りで演奏をとても面白くする要素だと思います。
アドリブのアイディアとしては、トライアドを3連で駆け上がるフレーズを連続して弾くものが印象的でした。ある意味エクササイズのようなフレージングですが、これこそエクササイズをしっかりこなしていないと弾けないフレーズだと思います。


M8. The Sound Of Water
今日のライブもいよいよ佳境に入ってきました!ラリーは一度ステージを降り、パットはピカソギターに持ち替えソロ演奏。ピカソギターが世に出た当時、この複雑な楽器をどうやって音楽の中に取り込めるのだろうか??と僕は思っていましたが、パットはこの楽器に合わせた曲作りとテクニックを駆使して今となっては必ずライブで登場するほどです。いつでも新しいテクニック、新しいテクノロジーに挑戦して新しい音楽を作り続けてきているパットの信念を感じます。
パットはピカソギターの普通のギター部分でベース音やハンマリング音を弾き、最下部と最上部の共鳴弦でメロディやコードを弾いています。つまり左手はほとんど普通のギターを弾いているような感じで、右手が上下に激しく動きながら演奏します。この動きが曲のメロディの中に取り込まれているというか、動きの中からフレージングが生まれてきたというこか、実に絶妙なコントロールで2パートを弾き分けています。こんなに弾くのが大変そうな楽器でもやはり一番効率の良い動きを考えることが重要で、それが出来れば演奏できるようになるんだということですね。これはピカソギターであれ、普通のギターであれ同じだと思います。
ピカソギターのサウンドは一度に鳴っている弦の多さから来るリバーブ感が特に際立って聞こえています。これは天然のロングサスティンなんだよな、と思いながら聴いていると、そのサスティン音が長く伸びた先に何か別の音が重なってくるような感じがします。ギターシンセ的な音にも聞こえるし、リバーブやディレイで何か細工をしてそのように聞かせているのかもしれない。この辺はまだ謎のままです。

M9. Improvisation with Mini Orchestrion
ラリーが再びステージに戻り、パットはフルアコに持ち替えます。パットが先に音を出すと、ギター音にパーカッションの音がかぶって出てくる。それにラリーがアルコでテールピース付近を弾く細かいフレーズで絡んできます。二人でリズムの実験をしているような混沌とした時間が過ぎていく中、ステージの両サイドからスタッフが出てきて、ずっとステージ奥に設置してあった暗幕を開けました!来ました、Orchestrion!しかも前回ツアー時よりも小さなサイズのMini Orchestrion!客席からはオ〜!というどよめきが生まれます。
パットは短いフレーズを弾くたびにフットペダルを踏みリアルタイムレコーディングをしていく。ギターの音がどんどん重なりライヒ的ミニマルミュージックの様相。ラリーも演奏しながら手元のコントローラーのボタンを押している。(まさか二人一緒にリアルタイムレコーディングか?と思いましたが、この辺は明確に分かりませんでした。。)
サウンドがかなり厚くなったところでパットはRoland G303に持ち替え、ギターシンセの登場!アドリブだと思われるテーマを弾きながら、ペダルコントロールで曲を進めていきます。つまりあるペダルを踏むと曲のパートがAからBに移り、違うペダルを踏むと今度はCに移るといった具合。その流れにラリーもぴったり追従し、ラリーがOrchestrionの中に取り込まれたかのようです。
パットが今回のツアーにMini Orchestrionを導入した理由を考えてみたのですが、ここまで作り上げたパットが一人でコントロールするオリジナルOrchestrionのコンセプトを先に進めて、生のミュージシャンを入れたOrchestrionに挑戦したのではないかと。Orchestrionサウンドに人間くささが加わり、有機的に響くOrchestrion。この辺の本意もいつかパットに聞いてみたいですね!

この曲が本編最後となり、演奏が終わってパットとラリーが盛大な拍手をにこやかに受けています。ああそうか、とここで気が付きましたがMini Orchestrionは1曲だけの登場だったのですね。この時間(たぶん15分くらい)だけのためにあのセットを組んで演奏してくれたということを考えると、パットの尋常ではないライブへの情熱とファンへの愛情を感じます。(※東京ではMini OrchestrionでAntoniaを演奏した日もあったとのこと。これも聴きたかったですねー!)

Encore:And I Love Her
パットが一人だけでステージに再登場し、ガットギターのソロでAnd I Love Her。開放弦のハーモニクスを織り込みながら柔らかく音を紡いでいくパット。今日のライブの余韻を我々に楽しませてくれるかのような演奏でした。

ここまであっという間の1時間40分。物事に集中していると時間が速く流れるものですが、パットのライブは特にそう感じます。客席が明るくなり、みんな席を立ち始めたときにパットとラリーが最後の挨拶に。パットはやはりはにかみ笑顔で皆に手を振ってくれました。