2012年3月3日土曜日

I-VI-II-Vコード進行でのヴァイオリンのフレーズ by Stephane Grappelli

僕がこれまで耳コピーをし、蓄えてきたアドリブフレーズを紹介します。指使いやニュアンスなど演奏における注意点の他に、音使いのアナライズも解説しています。アドリブのアイディアを広げる参考にしてください!



■フレーズの概要

Stephane Grappelliはジャズ・ヴァイオリンというカテゴリーを確立した偉大なミュージシャンです。その長いキャリアの中では伝説のスウィングギタリストDjango Reinhardtとグループを結成していた時期もあり、現代音楽史を語る上で欠かせないジャズプレイヤーの一人です。今回のフレーズはメジャーキーの代表的なコード進行である Imaj7-VIm7-IIm7-V7の中で演奏されているものです。曲のkeyはGメジャーです。ヴァイオリンならではの音色のニュアンスと共に、ジャズ的な音の選択方法にも注目していきたいと思います。



■指使いのこだわりポイント
まず出だしの1小節目1拍目の部分ですが、3弦12フレットから3弦7フレットへのジャンプから始まっています。各音はGmaj7のroot(G)と5度(D)の音であり、3弦12フレットから4弦12フレット、または2弦8フレットから3弦7フレットという運指も選択肢として考えられます。しかしどちらもスウィング感を出すのに必要な、ダウンからアップへのオルタネートピッキングがやりずらい形になってしまうので、同じ3弦上でスムーズにピッキングできる運指を選んでいます。インポジションからはみ出るジャンプがやりずらいのでは?と考える人もいるかもしれませんが、John Mclauglin的荷重移動で演奏できれば問題ないと思います。
次に2小節目1拍目と2拍目の部分ですが、中指のスライドで1弦12フレットに到達した後、1弦14フレットを人指し指で押さえるようになっています。フレーズの途中で大きなポジション移動があるので演奏が難しそうですが、1ポジション内だけで弾くものと比べて広い音域に渡る音使いができるので、ダイナミックなフレーズを弾くことが可能になります。ポジションにしばられないフレーズの組み立ても重要だといえますね。
3小節目から4小節目にかけては、小指のスライドダウンが入ったフレーズの連続になります。スライドを使わずに1弦と2弦にまたがるフレーズにする選択肢もありますが、全て1弦上で弾くことでヴァイオリンのような滑らかな音のつながりを表現することが可能になります。ギターの指グセとは異なる、新しい動きの生理を学んでください。このときピッキングはスライドが始まる音だけにしてください。4小節目4拍目も同じくスライドダウンです。1拍分の長さを使いゆっくりスライドダウンすることで、ヴァイオリン的グリッサンドを表現できます。

■演奏するときの注意点
このフレーズはほぼ全編、8分音符の連続です。スウィングの王道的なフレーズと言えますが、軽快なスウィング感を出せるように一定のテンポをキープしながら流麗に弾けるようになる練習が必要です。インポジション内で弾ける箇所はそんなに難しくないと思いますが、時折出てくるスライドとそれに伴うポジション移動のタイミングとニュアンスには気をつけてください。特にスライドは、高速で移動するスライドではなく、スライド中の音色をしっかり聴かせながら滑らかに移動しましょう。ギターはヴァイオリンと違いフレットのある楽器ですが、フレットレスのような意識でフレットの際から際へスライドできれば、グリッサンドのニュアンスを出すことは可能です。フレットの際を押さえることは上手にギターを弾くための基本事項でもあるので、マスターしていない人はこの機会にぜひ取り組んでください。

■音使いのアナライズ
今回のコード進行は、Imaj7-VIm7-IIm7-V7というジャズではお決まりのコード進行です。4つのコード全てがダイアトニックコードで、曲のキーから外れないオーソドックスな響きを持っています。このコード進行に沿ってフレーズのアナライズをすると、以下のようになります。
・1小節目:Gmaj7の1, 5, 6, 7, Em7のb3, 4, 5, 6
・2小節目:Am7の5, 6, b7, D7の5, 4, 3, 4
・3小節目:Gmaj7のb3, 2, 1, 7, Em7の4, b3, 2, 1
・4小節目:Am7のb7, 6, 5, 4, D7の6, 1, 6
・5小節目:Gmaj7の 2, 1, 6, 5, 1
1小節目から2小節目までは、コードトーンを強拍に配置することでコード感に忠実な響きを出しているフレーズと言えます。3小節目1番目の音はG ionianにはない音ですが、これはminor pentatonic scaleやblues hexatonic scaleにある音で、メジャーキーと合わせることでブルージーな雰囲気を出す役割を持っています。3小節目3,4拍目、4小節目3,4拍目、5小節目は強拍にコードトーンが配置されていることがほとんどなく、3小節目以降はコード感を表現するよりもフレーズの形やリズムを意識した音使いになっていると言えます。

では次のようにアナライズしてみるとどうでしょう。このフレーズをこの曲のkeyであるG ionian (G major scale)でアナライズしてみます。
・1小節目:G ionianの 1, 5, 6, 7, 1, 2, 3, 4
・2小節目:G ionianの 6, 7, 1, 2, 1, 7, 1
・3小節目:G ionianの b3, 2, 1, 7, 2, 1, 7, 6
・4小節目:G ionianの 1, 7, 6, 5, 3, 5, 3, 2
・5小節目:G ionianの 2, 1, 6, 5, 1
3小節目1番目の音以外は全てG ionianであり、ルート音とフレーズの形、流れを意識しつつ自由に演奏しているionianのフレーズだと言えます。初歩のアドリブとしては特に、このように曲のkeyを大きく感じる方法が演奏しやすいと思います。

■演奏できるシチュエーションの考察
Imaj7-VIm7-IIm7-V7というコード進行はいろいろな場面で使われています。今回のように曲の冒頭で使われる場合や、rhythm changeやturn aroundなどお決まりのパターンとして使われる場合など、数多くの曲で同じコード進行を見つけることができます。4つのコード全てがダイアトニックコードであるImaj7-VIm7-IIm7-V7の他に、secondary dominantを含む類似したコード進行もいくつか存在します。VIm7がVI7に変化した Imaj7-VI7-IIm7-V7上で演奏すると、VI7のところでコード感からやや外れて聴こえてしまいます。フレーズをコードの響きに合うように改造すれば演奏することは可能です。またIIm7がII7に変化したImaj7-VIm7-II7-V7だと、II7のコード感に影響のある音が元々含まれていないのでそのまま演奏しても大丈夫です。VIm7の代わりにImaj7が2小節続くImaj7-Imaj7-IIm7-V7でも問題なく演奏できます。
また他のシチュエーションとして、このフレーズ全体がionianを意識して自由に演奏しているというアナライズから考えて、コードチェンジしないImaj7のみのような場合でも演奏可能です。特にテンポが速い場合には1つ1つのコードに律儀に対応して演奏するよりも、曲のkeyを意識して大らかに演奏する方が良い場合もあります。いろいろなシチュエーションを試して、フレーズが心地よく響くパターンを各自見つけてください。

■参考
All God's Chillun Got Rhythm / Stephane Grappelli (from the album "Live At The Blue Note")