2012年3月16日金曜日

PatMethenyLabo:トライアドとTarget Note Approach

Patのアドリブの中で一番特徴的なのはtarget note approachです。他のギタリストとは全く異なるアプローチであり、他のジャズプレイヤーとも全く異なるアプローチであると言っても良いかもしれません。Patがなぜこの奏法に行き着いたのか、1992年に行われたインタビューの言葉を引用しながら考察していきたいと思います。

Q:あなたのプレイには多くのクロマチックノートが含まれていますね。」
Pat:長い時間をかけてアドリブを勉強してきたミュージシャンは誰でも、どうにか12音全てを常に使えるようにならないかというアイディアに最終的に行き着くんだ。そしてその先のステップは、実際に12音全てを使い始めることなんだ!最初はとても違和感があるよ。でもその部分のアドリブ言語を深く掘り下げてきたColtraneなどの演奏をたくさん聞けば、自分でもちゃんと聞けるようになってくるものだよ。」

まずPatがクロマチックノートを意識し始めたきっかけが語られています。ジャズを極めようとする過程で、クロマチックノートを使って演奏することは避けては通れないものとも言えます。PatはWes Montgomeryが自分のヒーローだといろいろな場所で言っていますが、ここではJohn Coltraneがクロマチックノートを使うお手本になったということなのでしょう。

Pat:コードスケールを使ったアドリブを勉強することはとても役に立つことだよ。でもその考えだけでは誤解を招くことになる。コードスケールの中に入っている7つの音は、全てがイコールではないんだ。つまりある音は他の音よりも明らかにしっくりくる。だから僕が皆に強く勧めているのは、アドリブ全部をコードトーンだけを使って演奏することなんだ。アプローチノートとかスケールノートを使わずに、コードが何であろうと基本コードトーンの3音か4音だけを使って。このアイディアはコードトーン(注)だけを使いつつ、でもコードトーンをただ使って弾いているようには聞かせないでメロディアスに弾けるということだよ。これが出来るようになったらコードと対比して一番しっくりくる音が分かるようになったということで、その音をターゲットにしてスケールの他の音も使えるようになるんだ。コードトーンを完璧に捉えられるようになって、他のスケールノートを経過音として使えるようになったら、残りのクロマチックノートに進んでいけるんだ。結局4つのコードトーン、3つの他のスケールノート、そして5つのクロマチックノートということだね。」

(注):実際のインタビュー中では「コードトーンアルペジオ」という言葉が使われています。しかし「アルペジオ」という言葉を使うと、分散和音を弾くアルペジオ奏法のイメージが付きまとってしまうと思います。ここでは分散和音的に弾く必要は全くなく、逆に単音で弾くからこそメロディアスなフレーズが生まれると言えるので、敢えて「アルペジオ」を省略し「コードトーン」と表記することにしました。

Q:(アドリブでクロマチックスケールを使う場合)純粋なクロマチックスケールという観点から考えているのですか?」
Pat:いや、僕はトライアドをメインに考えているよ。もし僕の演奏を分析したら、多くの場合トライアドの3音のうちのどれかに着地しているのが分かると思う。で、大抵の場合は3度だと思う。3度を基本に組み立てたフレーズをたくさん弾くからね。」

Patはトライアドを中心に置いてアドリブを演奏しているのが分かる言葉ですね。トライアドは4音コードの中で、ルート、3度、5度の音のことです。ということは7度の音はコードトーンのメインとして捉えるよりも、他のスケールノートと同じ扱い方をするということです。実際7度の音はコードのメインの響きを表すというよりも、コードの響きに彩りを添える役割をしています。ここで1オクターブ内の12音についてまとめてみると次のようになります。

・トライアド(ルート、3度、5度):コードの響きを表すメインの音
・その他のスケールノート(2度、4度、6度、7度):メインの音にアプローチする経過音
・残り5つのクロマチックノート:コードやスケールの響きを表さない音

Patはあくまでもトライアドでコードの響きを的確に表現することを中心に考え、トライアドを活かすために他の音を上手に使っていると言えるでしょう。そしてその方法として結実したのが「Target Note Approach」なのです。