2015年1月25日日曜日

Dorian modeを使ったフレーズ by Turtle Island String Quartet

僕がこれまで耳コピーをし、蓄えてきたアドリブフレーズを紹介します。指使いやニュアンスなど演奏における注意点の他に、音使いのアナライズも解説しています。アドリブのアイディアを広げる参考にしてください!

Dorian modeを使ったフレーズ by Turtle Island String Quartet

■フレーズの概要
Turtle Island String Quartetはヴァイオリン2本にヴィオラとチェロという弦楽四重奏で、ジャズやポピュラーの曲を演奏することで知られているグループです。(下写真は現在のメンバー。)今回のフレーズはD minorキーの曲中で弾かれているヴァイオリンのアドリブから引用しました。ヴァイオリンの音使いをギターでどう表現するかがポイントです。ギター以外のフレーズにもチャレンジして、それぞれの楽器特有のニュアンスを会得してください。



■指使いのこだわりポイント
ヴァイオリンはBow(弓)を使って音を出す楽器です。1度Bowを動かす間に多くの音を出せたり、長いサスティンの音を出せるところがギターと大きく異なります。このフレーズには滑らかなグリッサンドやスラーが使われているので、それらをギターにどう置き換えるのかがポイントになります。グリッサンドのニュアンスはギターのスライドに近く、同じ指を次の音にずらして音を出す弾き方という意味ではスライドと同じ奏法であると言えます。
スライドをするとポジションチェンジが生まれるので、その後のフレージングに合わせて指使いを考えましょう。またスラーはグリッサンドと違い左手の指を変化させながら弾く奏法で、ギターでいうとハンマリング・オンとプリング・オフにあたります。ピッキングをせずにハンマリング・オンとプリング・オフを使うことで、ヴァイオリンのように滑らかな音のつながりを表現することができます。右手のピッキングに頼りすぎず、左手のテクニックを重視してヴァイオリンのニュアンスを出せるようがんばってください。
(i :人差し指、m:中指、a:薬指、p:小指)

■演奏するときの注意点
ヴァイオリンの滑らかさを出すために、右手のピッキングに頼らずに左手のテクニックを最大限に生かして演奏しましょう。1小節目の2弦8フレットから3フレットへのジャンプは、滑らかな音のつながりを出すために敢えて同じ弦上での移動にしました。選択肢としては2弦8フレットから3弦7フレットへの移動も考えられますが、弦移動が入るためどうしても音が途切れて聴こえてしまいます。ヴァイオリン的ニュアンスを表現するために、多少のリスクは覚悟の上でがんばって演奏できるようにしてください。またハンマリング・オンやスライドを使って2弦3フレットに移動するとはっきりした音色にならないので、ここはピッキングしましょう。
3拍目と4拍目には中指(m)でのスライドアップとスライドダウンがあります。ポジション移動としては上下の動きが激しくなる箇所ですが、ここもヴァイオリンのニュアンスを生かせるフィンガリングにしました。確実にスライドアップ&ダウンをできるように、指の力を抜かずにしっかり音を出すよう意識してください。2カ所ある3連符のところはどちらもハンマリング・オンとプリング・オフのコンビネーションです。歯切れのよい音色を出せない場合は、左手の基礎練習をしてみることをお勧めします。

■音使いのアナライズ
今回の曲はD minorキーなので、ここでのDm7コードはtonicということになります。普通であればD Aeolianを弾くところなのですが、D Dorianで演奏されているところがポイントです。D AeolianとD Dorianを比較してみるとこうなります。
・D Aeolian:D, E, F, G, A, Bb, C (Root, 2, b3, 4, 5, b6, b7)
・D Dorian :D, E, F, G, A, B, C (Root, 2, b3, 4, 5, 6, b7)
両者の違いは6番目の音がb6度かナチュラル6度かというところです。Dorianでナチュラル6度になることによって、Dorian mode独特の響きが生まれます。このナチュラル6度のことをDorian modeの特性音(characteristic note)と言い、この音を強調して弾くことでよりDorianっぽい響きを演奏できるということになります。今回のフレーズ中では第1小節2拍目の3弦4フレット、3拍目の1弦7フレット、4拍目の3弦4フレットの音がそうです。どの音も比較的長い音だったり、繰り返し使われていたりして、演奏者が特にこの音を目立たせるように弾いている意図が分かります。また全編の拍の頭(強拍)の音使いをみてみると、5度、4度、b7度、6度となっていて、コード感にしっくりはまるマイナーの響きというよりも、浮遊感のあるフレーズになっているといえます。

■演奏できるシチュエーションの考察
マイナーキーの曲中でAeolianの代わりにDorianを使うという手法は、いわゆる「Mode奏法」としてよく使われます。オーソドックスなマイナーの響きであるAeolianを使うよりも、色合いの異なるDorianを使うことでアドリブにアクセントをつけることができます。Mode奏法で演奏される代表的な曲として、Miles Davis作曲の「So What」があります。Milesや他のバンドメンバーがどのようにDorian modeを演奏しているかはとても参考になりますので、ぜひ一度聴いてみてください。他のシチュエーションとしては、メジャーII-V-Iの中のIIm7の箇所でも使えます。この場合普通のダイアトニックフレーズとしての使い方になるので、オーソドックスな響きになります。またsecondary dominantに付随するIIm7でも同様に使えます。

■参考
Jaco / Turtle Island String Quartet (from the album "Side Winder")
So What / Miles Davis (from the album "Kind Of Blue")