2012年1月13日金曜日

PatMethenyLabo:目をつぶって演奏することとクリエイティヴィティ

Pat Methenyは演奏の大部分を目をつぶって演奏しています。
なぜPatはそうしているのか、その理由を考察していきます。

Patの演奏シーンを見ていると、目を開けているのはメロディを弾いているときと、演奏中に大きなポジション移動があるときです。他に自分以外のミュージシャンがアドリブをとっているときに、その人の方を見ながら伴奏をしているときもあります。逆に目をつぶっているときはアドリブを弾いている最中です。難しいアドリブフレーズを弾くときに目をつぶっていると間違える可能性があるのでは?と普通考えてしまいますよね。でもPatの場合は違うのです。

アドリブを弾くときには目をつぶっている方が良いのか?
ここでシンプルに疑問が浮かびます。アドリブを弾くときは目をつぶっている方が良いのでしょうか?ほとんどのギタリストは演奏のほぼ全てを目を開けて弾いています。間違えず正しい音の選択をし、正確に演奏するためには当然の弾き方ですよね。視覚で両手を完全にコントロールできるのですから、これほど安全な弾き方はありません。

ここでちょっと人間の知覚について考えてみたいと思います。
知覚には視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の5つがあります。
ある文献によると、物事を判断したり認識したりするときのこれらの知覚の割合は、
視覚87%、聴覚7%、嗅覚3%、触覚2%、味覚1%
という具合なのだそうです。視覚の割合が圧倒的に多いのが分かります。つまり視覚を頼りにして物事を行えば、大抵の場合は大丈夫ということです。


ギター演奏に置き換えると、視覚から得られる空間認識によってフレットの場所、弦の位置、指の動かし方などをコントロールしていると言えます。ただ逆に考えると、視覚の割合があまりに大きいとも言えますよね。視覚からくる情報を処理することにとらわれてしまうために、新しいアイディアを考える余裕を持つことが難しくなる。つまりそれまで練習してきたフレーズを思い出しながら再現することだけにいっぱいいっぱいになってしまうのです。

目をつぶって演奏するメリットとリスク
目をつぶった演奏の場合、視覚に意識をとらわれることはありません。代わりに頭の中で描くイメージに意識を集中することができます。周りの音をしっかり聴きながら、演奏したい音の流れとそれにリンクしたフィンガリングを追いかける。純粋に「音」のことだけを考えて演奏することが可能であると言えますね。

Patの他にも目をつぶって演奏するギタリストはいます。例えばジミヘンは歌っているときは観客の方を見ているので、ギターを見るのは場所を確認したいときだけです。ソロを始めるときは弦を押さえる場所を見ますが、アドリブが盛り上がってくると目をつぶり自分の世界に没頭します。感情の赴くままに演奏するという表現がまさにぴったりですね。

Patの場合もジミヘンと同様、感情表現が実に豊かです。プレイスタイルは違うけれど意味は同じです。演奏が機械的にならずとても人間味あふれるものになるということが、目をつぶって演奏するメリットだと言えます。

確かにずっと目をつぶったままだと、正確に発音できないリスクがあります。しかしそのリスクを負ってでも自分のクリエイティヴィティに従って演奏するのがPatなのです。

演奏中の自分はプレイヤーではなくリスナーである
Patの言葉でとても印象的なものがあります。「アドリブを演奏しているときの自分はプレイヤーというよりもリスナーになっている。今弾いているフレーズの後にどんなフレーズを聴きたいのか、感覚を集中するんだ。音楽が求める音を弾くんだ。」この言葉からPatのアドリブへの考え方、姿勢が見て取れます。それは単純にスケールやフレーズを追いかけて弾くというものではなく、その場で思いついたものを自由に弾くということでもありません。その時、その瞬間だけの音楽に必要な音を奏でるという意味なのです。

このような境地に達するにはどれくらいの努力と訓練が必要なのか、想像もつきません。しかしPatのような演奏を目指すには、同じ感覚を持てるようにならなければなりません。Patは目をつぶり、耳を全開にして音楽をよく聴き、音楽と一体化しているのです。