2012年1月31日火曜日

Pat Metheny Tour in Japan 2012 ライブリポート:その1

2012年1月17日から30日にかけて全国3会場(名古屋〜東京〜札幌)、20公演行われた今回の来日ツアー。昨日の札幌公演をもって全日程が終了しました。Patの演奏を観るのは今回で6回目となりましたが、初めて地元札幌で観るチャンスに恵まれたという感慨深い気持ちを胸に抱きつつ、会場となったニトリ文化ホールへ足を運びます。(ちなみに札幌での公演は今回で3回目だったそうです。)

『An Evening with Pat Metheny with Larry Grenadier』と銘打たれた今ツアー。Brad Mehldauの "The Art Of The Trio" に参加していたベーシスト、Larry Grenadier(ラリー・グレナディア)とのデュオです。パットとラリーは今回が初共演ではなく、パットの99>00トリオにラリーが参加していたり、逆にパットがThe Art Of The Trioに参加する形があったり(2007年スペインでのライブ)と、何かと接点があったようです。パットとベーシストとのデュオはこれまでにCharlie Hadenとの演奏がありましたが(ミズーリの空高く)、ラリーの感性から生まれるサウンドはパットとどのように混じり合っていくのか、とても楽しみなところです。

ではさっそく当日の曲順に従ってレビューしていくことにしましょう!


M1. Make Peace
まずはパットが一人でステージに登場し、バリトンギターのソロからスタート!最新作(What's It All About)がほぼ全編バリトンギターのソロ演奏だったのでライブでも観れるかもと思っていたのですが、1曲目から登場です!バリトンギターは普通のアコースティックギターよりも低い音域の音が出るギターで、より深い音色が特徴。公式映像を観るとパットはチューニングを6弦解放でBから始まるナッシュビルチューニングにしているようで、かなりベースの音に近い音域まで出しています。
曲の始まりから中盤まではフィンガーピッキングで演奏。時折聞こえてくる低いベース音の迫力がとても印象的です。また高音弦側はダークなリバーブ音と混じり合いとても落ち着いた響きがしています。(機材レビューは別ページで改めて扱います。)
曲の後半はフィンガーピッキングからピックでのストロークにチェンジ。バリトンギターのキャラでけっこう重めのサウンドになるのではと思いましたが、意外にも軽快!これは一つにはパットの演奏方法にあると思われ、とにかく右手のストロークが軽い!いつものピックの丸い部分を弦に当てる弾き方には変わりないのですが、弦への当て方が軽く優しい。ナッシュビルチューニングの影響もあるとは思いますが、普通のアコギとほとんど変わらないサウンドです。またここでもベース音がかなり効果的で、ストローク奏法に欠けがちな低音域を補っています。バリトンギター恐るべしです。
そしてもう一点、このバリトンギターのサウンドを作り上げている要因はピックアップのシステムだと思います。音色を良く聴くとかなり生音に近い感じに聞こえます。サウンドホールにマグネットピックアップが無いところ、そしてケーブルが2本つながっているところをみるとおそらくアンダーサドルのピエゾとコンデンサーマイクをミックスしているのではないかと思われます。あくまでもギター本来の鳴り重視ということなのでしょう。

M2. Unrequited
ここでラリーが登場しベースとのデュオとなります。この曲はBrad Mehldauとのアルバムに収録されていて、モーダルインターチェンジが駆使されています。二人はこの複雑な曲の流れをエキサイティングに弾き切っていきます。パットが弾いているのはIbanezのPM20、のように見えるフルアコ(本当はプロトタイプなのでしょうか?)。シングルカッタウェイのギターですね。パットのエレクトリックかつ音圧の高いサウンドとのバランスを取るために、ラリーは演奏しながら自分のモニター音量を調節しています。当然のようにグルーヴ感を失わず自分の演奏しやすい環境を整えていくのはさすがです。
パットがテーマからアドリブへ移行し、続いてラリーのアドリブとなります。この時のパットのサウンドがテーマを弾いていたときと違う!コンピングに入る前にサウンドホールに付いているスイッチをカチッとやりました。するとエレクトリックな音色からアコースティックな音色に瞬時に変化!このギターにも2本ケーブルがつながれているところをみると、おそらくマグネットとピエゾ(もしくはコンデンサーマイク?)のミックスまたはオンオフを切り替えられるようになっているのでしょう。メロディを弾くときにはマグネットとピエゾをミックスして独特なジャズギターサウンドを、バッキング時にはピエゾのみでアコギっぽいサウンドを。パットの音色へのこだわりがここでも強く感じられます。
パットのアドリブのアイディアは本当に虹色のようにたくさんありますが、この曲ではコードソロのような部分が目立ちました。オーギュメントやディミニッシュのコードフォームで全音または1.5音落ちていくアプローチ。分かってはいるけれど意外とすぐに出て来ないアプローチだと思います。

M3. James
言わずと知れたパットの代表曲!99>00トリオのときのような軽快なテンポです。ギターとベースの二人だけの演奏なのですが、全く二人だけに聞こえない。相手の音に集中し、リアルタイムで音を埋めたり省いたりする感覚で弾いているのでしょう。「音で会話する」という言葉をよく聞きますが、まさに二人の演奏のようなことなのでしょうね。
パットは引き続きフルアコで演奏しています。このサウンドは本当に特徴的で、音色の芯の部分はかなりドライに聞こえるのだけれどほんわり包み込まれている柔らかさもある。ピエゾっぽい明るくざらっとした感じがはっきり聞こえつつ、ダークなリバーブ音がまろやかな空間を演出している感じです。パットの音色は昔からかなり特徴的でしたが、最近はさらに一歩進んだサウンドに到達しているような気がします。

続く。。。