2012年1月28日土曜日

アドリブ研究:トルコ行進曲のメロディに挑戦!

クラシックの名曲「トルコ行進曲」のメロディに挑戦してみましょう!元々はモーツァルトが作曲したピアノの曲です。クラシックの曲はヴァイオリンやピアノのために書かれたものがほとんどです。ギターの音の並び方や得意な指使いはそれらの楽器と異なるので、演奏するのが難しくなってしまう場合があります。しかし逆に考えると、いろいろな指使いを学んだり、スムーズな指の動きを作るエクササイズとして非常に有効です。もちろんアドリブのフレーズとして使えるアイディアも数多く含まれているので、この機会にぜひチャレンジしてみてください。キーはAマイナー。原曲にはコードも入っていますが、今回はメロディだけをシングルノートで弾いてみましょう。
■指使いのこだわりポイント(人差し指:i、中指:m、薬指:a、小指:p)
一番最初にある16分音符4つのピックアップノートから1小節目にかけて、敢えて3弦だけを使う指使いにしています。もちろん3弦から2弦への弦移動を含む指使いも考えられますが、早いテンポでの演奏のしやすさを考えるとこれがベストだと思います。左手は3弦をずっと上っていく中で正確なポジションチェンジの練習を、そして右手は3弦のみを確実にリズムに合わせてピッキングしてください。

■演奏するときの注意点
このメロディは何と言っても左手と右手のコンビネーションが命です。右手が均等で安定したピッキングをしている間に、左手がポジションチェンジを含む素早い動きをします。ポジションチェンジをする際には左手をリラックスさせ、右方向への荷重移動を意識して移動しましょう。力みが入ってしまうと動きが遅くなるだけではなく、指先が固くこわばって細かいコントロールができなくなります。練習するときはまずとてもゆっくりなテンポから始め、両手が完全にリンクするようになるまで細心の注意を払って弾きましょう。慣れてきたら少しずつテンポアップします。テンポアップするときの注意点ですが、両手ともに無駄な動きがないようにしましょう。とくにピッキングの振幅は狭くコンパクトにしてください。速くなればなるほどピックの先が1本の弦だけを確実に捉えられるように練習しましょう。

■音使いのアナライズ
曲のキーはAマイナーなので、A aeolianスケールを中心に考えます。
A aeolian : A, B, C, D, E, F, G
これらの音を度数表記するとこうなります。A aeolian:1, 2, b3, 4, 5, b6, b7
・ピックアップノート:2, 1, 7, 1
・1小節目:b3, 4,b3, 2, b3, 5, b6, 5, #4, 5
・2小節目:2, 1, 7, 1, 2, 1, 7, 1, b3, 1, b3
・3小節目:(#1), 2, 1, b7, 1, (#1), 2, 1, b7, 1
・4小節目:(#1), 2, 1, b7, 6, 5, 2, 1, 7, 1   ※( )内の音は短い音価の修飾音符

<アナライズその1>
各音の度数をみてみると、A aeolianの度数以外の音も使われていることが分かります。ピックアップノート、2小節目、4小節目に7度の音が使われていますが、aeolianスケールでは通常b7度が使われるのでノンダイアトニックノートといえます。どの音も半音下から1度の音にアプローチしているので、クロマチックアプローチノートと解釈しましょう。また別の解釈として、melodic minorスケールやharmonic minorスケールの7度の音が一時的に現れたと考える可能性もあります。しかし1小節目でb6度の音が使われている点、そして3小節目でb7度の音が使われている点を考えると、やはり7度はクロマチックアプローチと解釈するのが良いと思われます。

<アナライズその2>
4小節目に注目します。6度の音が使われていますが、これはaeolianスケールの中にはなく、dorianスケール中に存在する特性音です。なぜここで6度の音が使われているのか、考えてみましょう。このフレーズを通して聴くと、2小節目まではずっとAの音がルートに聞こえていますが、3小節目以降では、4小節目の5つ目にあるEの音がルートのように聞こえます。ルートの音が変化して聞こえるということは、キーが変化したということですね。つまり、AマイナーのキーからEマイナーのキーに転調したということです。この解釈でOKだと思う人も多いかと思いますが、もう少し深く考えてみましょう。
4小節目3拍目のフレーズが終わった瞬間の雰囲気を感じてみてください。Eマイナーキーのように聞こえますが、何となく宙に浮いているような響きがしませんか?Eマイナーキーにどっしりと着地した感じがしない、言い換えるとEの音が完全なルート音に聞こえないのです。実際すぐまたAマイナーキーに戻って曲が続くことを考えると、一瞬だけEマイナーキーっぽい響きに変化していると解釈することができます。
ここまでを総合的に考えると、モーダルインターチェンジが起こっていると解釈するのがベストだと思います。Eマイナーキー、つまりE aeolianはAからみるとA dorianです。よってA aeolianモードからA dorianモードへのモーダルインターチェンジが起きているということになります。このようにモーダルインターチェンジとして捉えると、フレーズの終わりが宙に浮いた感じがするという感覚も納得できると思います。
モーツァルトがモーダルインターチェンジをはっきり意識して使ったのか、本能的にやってのけたのか、今となっては知りようがありません。ですが、たった一つの音使い(6度)で曲調の変化をつけるという、天才的な感覚を持っていたことは確かです。我々もこのようなアイディアを学べば、同じことをできるようになります。先人が作り上げた素晴らしい音楽を、ぜひ自分たちの手でも作れるようになりたいですね!

■演奏できるシチュエーションの考察
ジャズ的アドリブの手法で、他の曲のメロディをアドリブとして演奏するというのがあります。知っているメロディが聞こえてくることで、とても印象的なアドリブになります。このフレーズがaeolianスケールを中心に作られたものと考えると、ジャズに限らずマイナーキーの曲であれば大抵この手法で弾けます。ただ注意点として、曲のグルーヴに合わせてフレーズのリズムを変える必要があるので、細かいグルーヴを意識しながら演奏しましょう。
また、長いメロディを短いフレーズに分けて演奏する方法もあります。トルコ行進曲の場合は各フレーズがメカニカルな組み立てになっているので、繰り返し弾くことで印象的な流れを作れます。特に速弾きの中で弾くとメカニカルな雰囲気が活かせると思います。テクニックを磨きながらフレーズを増やせる良い例だと思いますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね!

■参考
1966 Horowitz in concert / Vladimir Horowitz(ウラジミール・ホロヴィッツ)